アマチュア植生調査 Vol.1 冬の高尾山

ご無沙汰している、読井(ヨミイ)です。自分でもこのペンネームの存在を忘れてました。ので、今使いました。

 

このブログが始まって以来ずっと、暗い投稿ばかりをしておりました。何に対する当てつけなのか分かりませんが、今見返してみてもとにかく暗い。これでは「ひょっとしてお前の先祖、ダークマターか?」と疑われても仕方がありません。

なのでたまには日記的な記事でも書こうかと思い、今号の筆を執った次第です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と書いてから、一年が経過しました。文章は書いてから一旦寝かせろとはよく言ったものですが、いくらなんでも寝すぎです。いや、寝かせすぎです。それはもうずいぶんと発酵してらっしゃる。なんてったって一年物ですわよ、お客さん。

 

改めまして、読井(ヨミイ)です。最近はベイクドステラの名義でやってることも多いので、このペンネームもだいぶ埃を被っておりました。

去る2020年の2月*1、ちょうどCOVID-19の騒ぎが本格化する直前、その頃の僕はというと卒論の発表が終わって清々しておりました。研究室の蛇口から出てくる泥のような臭いを放つ水道水で淹れるハーブティーの味にうんざりしなくてもいい、その解放感に身を委ねるまま、気が付くと僕は京王線下りの座席に座っていました。向かうは高尾山口駅、ソロ登山です。今回はそのとき山路でよく目に入った樹木について、アマチュアなりに纏めてみました。当方腐っても森林科学系院生の端くれですので、それとない蘊蓄がぼちぼち混じります。悪しからず。

それではいってみよー。

 

 

 

アオキ Aucuba japonica

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登り始めの低木層はマジでこれしか生えてなかった

 

でかくてギザギザでてらてらした緑が特徴的な、常緑低木です。低木なので幹は直径数cm程度までしか成長しませんが、その幹が青いので「青木」というらしいんですね。 江戸時代には庭木としてよく用いられたらしく、大学のキャンパス内にもひょっこり生えてたりします。ちょっと脱線しますが農学部の図書館には大学に植わってる樹木の名前と場所が全部載ってる地図があります。低木まではさすがに載っていませんが、なかなか面白いのでぜひ。

実(み)は冬に熟すようで、ちょうど頃合いのものがたくさん生っています。ただ、鳥たちにはどうも人気、いや鳥気がないようで大量に売れ残っておりました。試しに真っ赤に熟れたのをひとつ拝借して、端の方を齧ってみると……全然甘くない。なんだかキュウリの出来損ないみたいな味がする。しかも、中につまってる種がでかすぎてほとんど食べるところがない。どうりで売れ残るわけです。サイズ的に小型の鳥には大きすぎて食べれないってのもあるようですね。(途中の看板に書いてあってのですが、冬に住宅街でもけたたましく地鳴きをしているヒヨドリは、それなりに食べるそうです。)

 

 

シキミ Illicium anisatum L.

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艶消しグリーンの葉が独特の雰囲気を醸し出す

 

山の中腹くらいからちらほら見かけるようになった中低木です。漢字では一般に樒と書きますが、木偏に佛(仏の旧字体)と書いてもシキミと読みます。どうやら昔(今も?)お焼香の材料として使われていたのがその由来のようです。葉っぱをちぎってくんくんしてみると、文字通り抹香くさい匂いがします。日本人にアンケートを取ったら15%くらいからは「おばあちゃんちの仏間のニオイがする」と返ってきそうな芳香、と書けば伝わるでしょうか。あ、あと仏花の背景的なぺらぺらの木も、シキミの枝ですね。意外と目にする機会の多い樹木の一つかもしれません。

ちなみに仏教で使うのが梻(シキミ)なら、神道で使うのが榊(サカキ)。○×クイズなら思わず×でないかと勘繰ってしまいそうなくらい単純な漢字の"つくり"です(二つの意味で)(うまい、山田くん座布団一枚やってよ)。神社のお祓いで神主さんがぶんぶん振ってるやつがサカキですので、お間違えなきよう。

こちらもきれいな赤い実をつけますが、有毒です。誤食して仏さんの厄介にならないようにしましょう。

 

 

カヤ Torreya nucifera

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葉っぱは触ると血が出るくらいには痛い!

 

それなりに高いところまで登ってくると生えてる針葉樹です。漢字で書くと「榧」です。同じ植物系の漢字で「茅」や「萱」も"かや"と読みますが、部首が草冠というところからも分かるように、これはイネ科やカヤツリグサ科等の雑草のことです。より正確には、材料なり飼料なりで利用されてきたものの総称です。「茅葺きの屋根」と言えばわかりやすいでしょうか。雑草という文字通り、大雑把なくくりです*2

以下余談。英語で草といえば"lol"……ではなく"grass"ですが、これは単子葉類の草本のみを指すようです。たしかに雑草と言えば鋭く尖った葉っぱのイメージですわな。では双子葉類の草本は何といったかというと、これが思い出せないんですね。なんかの論文で読んで、ホォと思ったのは覚えているんですが……もしご存知の方がいらっしゃればこっそり教えてください。

草本にばかり話がそれて肝心のカヤが"蚊帳"の外になっていたので、閑話は休題と致しましょう*3。材は上品な淡黄色で、高級な碁盤・将棋盤の材料といえばカヤなんだそう(ちなみに駒といえばツゲ)。モミに似た針葉は、ちぎるとグレープフルーツのようなとてもいい香りがします。黄緑色のオリーブのような実をつけ、果肉は葉っぱと同じく柑橘集がします。絞ると油が出てきますが、天ぷら油として使われる例もあるそうな。割ってみると、堅い殻に覆われた種子が顔を出します。なんと食べられるらしい! 今は冬なのでさすがに見つかりませんでしたが、秋口にリベンジしたいですね。

追記:秋に訪れた山で偶然見つけたので、持ち帰って煎って食べました。クソ渋くて不味かったです。ちゃんと灰汁抜きしてから食べよう! 

 

 

アラカシ Quercus glauca

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コナラ属共通のとげとげ葉っぱは「鋸歯(きょし)」といいます

 

「樫」です。どんぐりの木です。とは言ってもどんぐりの木はたくさん種類があるので、そのひとつです。

どんぐりは、種子を堅い殻が覆っているので正式名称を堅果(けんか)といいます。どんぐりのぼうしは殻斗(かくと)です。カシをはじめ、ブナ科の樹木はみんなこの堅果+殻斗のどんぐりセットをつけます。ブナ、クリ、カシワ、スダジイマテバシイクヌギ、コナラ、全部ブナ科です。たまには"目くそ鼻くそ"と同義のことわざとして我が子を引き合いに出されているブナ科樹木の気持ちも考えてみてください。

カシ類はシイ類(スダジイなど)やタブ類(タブノキなど)と並んで日本の代表的な照葉樹です。特に西日本に多いですが、最近は温暖化で東にも増えてきてるんだとか。事実、高尾山でたくさん生えてたし。近縁種のシラカシウラジロガシもちょいちょい見かけました。

さてお待ちかね、実食情報! 僕は小学生の時に不定期の自然観察クラブみたいなのに知らないうちに所属していたんですが、近くの大学の先生が教育普及の一貫としてよく指導に来てくれていました。隔月くらいで出るB4サイズのちっちゃな会報に投稿した「どんぐりって食べられますか?」という質問に、先生のアンサーがばっちり掲載されていたときの何とも言えない面映ゆさ、あれはよく覚えています。僕はラジオは聴かない人間でしたが、お便りが読まれたときってああいう感覚なんでしょうねぇ。で、肝心の内容はというと「食えるには食えるけど、しっかり灰汁抜きが要る」とのこと。マテバシイスダジイはそのままイケるらしいんだけどね……

 

 

 

とまぁ、こんなところでしょうか。ほかにもヤブツバキとかセンリョウとか、いろいろ生えてはいたんですが、特によく見かけた4種に絞って紹介しました。冬なので常緑樹ばかりになってしまいましたね。

樹木を同定するにあたっては、下の本を使いました。図鑑レベルの種数は載っていないものの、読み物的面白さがあります。実際上に書いた豆知識も半分はこの本からの引用です。樹木に関する基礎知識も載ってますし、入門書としておすすめです。 

葉っぱで見わけ五感で楽しむ 樹木図鑑
 

 

記事を書くにあたって昔の写真を引っ張り出しましたが、やはり映像記憶というのは不思議なもので、忘れていた感覚や感想がするすると出てきます。芸術的なものが撮れればもちろんそれがベストですが、そんなの気にせず記憶呼び出し装置としてバシバシ撮っていくのも大いにアリだなと思いました*4著作権を気にしなくていいのも、自分で写真を撮ることのうれしいポイントですね。

そうそう、タイトルは"Vol.1"なんて銘打っていますが、ぶっちゃけ続く可能性は低いです。続き物にするとプレッシャーだったり飽きだったりでどうしても二の足を踏んでしまうんですよねぇ。連載持ってる作家さんや漫画家さんはほんとにすごい。もし西日本や北日本の山に登ることがあったら、また書こうかな?

 

それでは、このへんで。

 

 

 

*1:いや2月だから"逃げる"か

*2:「雑草という草はありません」という昭和天皇のお言葉を引用しておきます。

*3:「この洒落は及第でしょうか?」「あかんわ」

*4:もちろん撮っちゃダメなものはダメ! あと写真撮られるのが苦痛な人もいるので、人物を被写体とする際は事前確認を忘れずに。